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研究概要


背景

酸化物(セラミックス)は、陶器、磁石、誘電体、光触媒など紀元前から現代に至るまで、私たちの生活において最も身近で最も有用な物質で有り続けています。しかし、これらの酸化物は、陶芸を想像すればわかるように通常1000℃以上の高温で合成されるため,環境に厳しく、かつ、組成・構造の制御は簡単ではありませんでした。

研究概要

我々の研究室では、「非溶液型の低温反応」という全く新しいスタンスで遷移金属酸化物をベースとした新物質開発を行っています。この戦略には以下の3つの特長があります。

◆ 環境への負担が少なく、安全
◆ 合成有機化学のように合理的な設計が可能
◆ 伝統的な高温反応では得られない配位結合や電子状態が実現

この手法を駆使して、革新的な機能 ー 例えば、超伝導体、磁性体、イオン伝導体、誘電体、顔料、触媒材料 ー を見出すことを目指しています。

目標、最近の成果など

■ 平らな鉄酸化物の化学の創製

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水素化物を用いた低温還元法によって、無機化学の常識を覆す配位状態(鉄の平面4配位)をもつSrFeO2やSr3Fe2O5などの鉄酸化物の合成に次々 と成功しました。新しい配位状態が、このような単純な組成・構造をもつ酸化物で実現できたのは極めて稀です。構造の新しさだけではなく、新しい電気・磁気 特性も見出しました。平面4配位の鉄は既存の鉄よりも結合力が強いことを利用した強力磁石などへの応用が期待されています。

Nature (2007)
Angew. Chem. Int. Ed. (2008)
J. Am. Chem. Soc. (2009)
J. Am. Chem. Soc. (2008)
Nature Chemistry (2009)
Nature Chemistry (2010)
J. Am. Chem. Soc. (2011)
J. Am. Chem. Soc. (2012)
Chem. Soc. Rev. (2012)
化学 (2008)
機能材料 (2008)
固体物理 (2008)


■ 複合アニオン化学の創製

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今までの酸化物の化学は、複数のカチオンの組合せの化学といっても過言でありません。これに対し私たちは、低温合成法を使うことで複数のアニオンを含む新 物質の開拓に挑みます。例えば,低温イオン交換反応によって,磁性のない酸化物 (O) から2次元磁性をもつ酸塩化物 (O, Cl) への変換に成功しました。

J. Phys. Soc. Jpn. (2005)
Phys. Rev. B (2009)
Phys. Rev. Lett. (2010)
Chem. Mater. (2010)
固体物理 (2006)
BTOH3.jpg

また、積層コンデンサーとして電子機器に広く使われているチタン酸バリウムBaTiO3が、大量に水素を取り込むことを発見しました。この水素は負の電荷をもつヒドリド(H-)として存在します。上図に示すように、水素(白丸)は格子内を動き回ることができるため、新しいイオン伝導体としての可能性に注目しています。

Nature Materials (2012)
J. Am. Chem. Soc. (2012)
Inorg. Chem. (2012)
Nature Chemistry (2015)
J. Am. Chem. Soc. (2015)
J. Am. Chem. Soc. (2016)


■ 高温超伝導体の探索

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室温超伝導体が現在の電力ケーブルに置き換われば、温室効果ガス排出量が数十パーセント削減するといわれています。現在の転移温度の世界記録はまだマイナ ス140℃です。2009年度に採択された東工大細野教授をリーダーとする超伝導関連の大型プロジェクトで、私たちは新物質開発を担当しており、この究極の夢に挑戦しています。

J. Phys. Soc. Jpn. (2012)
J. Phys. Soc. Jpn. (2013)
J. Phys. Soc. Jpn. (2013)
Nature Communications (2014)

最先端研究支援プログラム


■ 酸化物ナノシートの開発

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酸化物ナノシートとは、厚さ方向のみがナノの大きさの究極の2次元酸化物のことです.この次元性の効果によって新しい機能物性が期待されています。酸化物 ナノシートの合成には従来は複雑な過程や時間、コストを必要としましたが、私たちはマンガン酸化物ナノシートを室温,数時間で合成する方法を開発しまし た。この新手法では、1枚の層のみからなる“モノ”シートが高い收率で得られます。現在は,有機無機ナノシートなどへの展開を図っています。

J. Am. Chem. Soc. (2008)
J. Mater. Chem. (2011)
J. Mater. Chem. (2012)


■ フラストレーション磁性体の開発

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フラストレーション(競合)系は、磁性体でもあっても磁気秩序を示さないなどの不思議な現象を示すことが知られています。1998年に発見したSrCu2(BO3)2の銅(丸)の格子は、理論家シャストリー、サザーランドが1981年に考察した厳密模型と等価であることがわかり、また、磁化プラトーなどの巨視的量子現象が発見されたことから大きな注目を集めました。

Phys. Rev. Lett. (1998)
Phys. Rev. Lett. (1999)
Phys. Rev. Lett. (2000)
Phys. Rev. Lett. (2000)
Phys. Rev. Lett. (2001)
Phys. Rev. Lett. (2001)
Phys. Rev. Lett. (2001)
Science (2002)
Phys. Rev. Lett. (2008)
Phys. Rev. Lett. (2010)
Phys. Rev. Lett. (2013)
Phys. Rev. Lett. (2013)
トポロジーデザイニング, 第4章2節

特定領域研究